2025/10/24 21:00

前回の記事でご紹介した、
“We do not pasteurize our products, so it can spoil quickly.”
というブルワリーの一文。

この言葉が、San Diego Craft Beer Japan(SDCBJ)にとって「冷蔵輸送を意識するきっかけ」になりました。

では、実際のところ、なぜクラフトビールには冷蔵が必要なのでしょうか?
今回は、その理由を少し専門的な視点から整理してみます。

1. 酸化と香りの劣化を防ぐため
クラフトビールの特徴でもあるホップの香りやフレーバーは、熱と酸素に非常に敏感です。特にIPAのようにホップアロマを前面に出したビールは、常温で置かれると数日~数週間で香りが飛びやすくなります。

冷蔵環境に保つことで、ホップ本来のフレッシュな香りや苦味のバランスをできるだけ長く保つことができます。

2. 無濾過・非加熱ゆえの “生きている” ビール
多くのクラフトブルワリーは、無濾過・非加熱(non-pasteurized)でビールを仕上げます。つまり、酵母や微細なタンパク質、ポリフェノールなどが生きたまま残っています。

これらの成分は温度が高いと変質しやすく、沈殿や濁り、風味の変化を起こすこともあります。だからこそ、クラフトビールは「低温で静かに休ませる」ことが大切です。

3. ラガーとエールの “つくり方” の違い
発酵温度や仕上げの工程も、保存方法に影響します。

ラガー:低温でゆっくり発酵・熟成(7〜12℃程度) → 安定性が高く、濾過・加熱殺菌されることが多い → 常温流通が可能
エール:やや高温で発酵(18〜22℃程度) → フルーティーで香り豊か → 熱や酸化に弱く、冷蔵が望ましい

ただし、「エールだから冷蔵」「ラガーだから常温」という単純な区別ではなく、“非加熱・無濾過で香りを重視するかどうか” がポイントです。

4. フレッシュさ=ブランドの信頼
冷蔵での流通は、単なる品質管理ではなく、クラフトブルワリーの信念を守る行為でもあります。「フレッシュな状態で届けたい」「つくり手の温度を感じてほしい」そんな想いが、冷蔵輸送の背景にあります。

クラフトビールは “生きている” 飲みもの。その魅力をできるだけ損なわずに届けるために、冷蔵は欠かせません。